第22話 山内千代に学ぶ
1.『馬揃え』のエピソード
山内一豊が織田信長に仕えてあまり月日が経っていない頃の話です。
奥州(かつては良馬の産地として知られていました)より馬商人が安土に来ました。馬商人が引いていた馬は、あまりに見事な馬でしたが、値段が高く、誰も手が出せない代物でした。一豊もこの馬を見、立派な馬を見たと事の次第を妻の千代に話をしました。近く予定されていた『馬揃え』に乗っていったら信長様の覚えも目出度いだろうと夫婦で話しをしたのです。馬の値は黄金十両、貧乏生活の中、とてもそんなお金は無いだろうと思っていた一豊のボヤキです。
ところが千代は、黄金十両を夫に差出しこう言います。「そんなに欲しければその馬を買いなさい。」この黄金十両は、千代が嫁に来るときに何かあったときにはこれを使いなさいと言われて持たされたもので、貧乏生活の中、使わずに大切に守ってきた全財産です。それを簡単に差し出したのです。結果、『馬揃え』の最中、立派な馬に乗る一豊は、衆目を集めることになります。土佐24万石の大名となる一豊と千代の創世記のエピソードです。
2.千代に学ぶ
山内一豊という男は、戦争に行けばあまり武功が無く、無事に帰ってくるだけが取り得の男、現代ではうだつのあがらないサラリーマンというイメージです。ところが、内助の功で24万石の大名となります。その間には数々の決断がありますが、その多くに千代が関係してきます。そのひとつがこの『馬揃え』のエピソードです。
この『馬揃え』のエピソードで学ぶべきは、意思決定の思い切りの良さ、意思決定をしたら徹頭徹尾それに従うことです。この2つが千代と一豊に運を齎したと考えられます。
主な意思決定
- 良馬を思い切って購入し、『馬揃え』に参加する。
常に合戦で手柄を立てるために、武具を揃えたり、家臣を多く召抱える武士が出世していく時代でした。千代の思い切った意思決定もこの計算が成立することを前提としたものです。 - 信長健在時に織田の直臣から家臣の少ない秀吉の家来となる。
秀吉は、百姓の出であるとして家臣団の中では差別されていましたが、信長の覚え目出度く、出世街道を走っていました。家柄を重視する風潮の多かった当時、先入観を捨てることは、思い切った行動です。結果、掛川5万石の大名となります。 - 関ヶ原合戦前夜に徳川に味方する。
石田三成率いる西軍は、豊臣代表という意識で戦場に臨みましたが、千代と一豊の見立てでは、次の時代は、家康の時代、皆に先んじて家康を擁護したことにより一躍土佐24万石の大名となるのです。